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【2022年28冊目】佐橋亮『米中対立―アメリカの戦略転換と分断される世界』(中央公論新社、2021年)

<今日の投稿の要約>
・アメリカは中国に限らず、「昨日の友」を「今日の敵」にしてきた歴史がある。
・アメリカはイノベーション=創造的破壊の国家であり、否定・破壊されるべき対象である敵を常に必要としている。
・経済的なイノベーションの場合、破壊対象となる敵は自然と生まれるが、政治の世界ではアメリカが人為的に敵を作り出している。
・さらに悪いことに、アメリカは自由・平等などの普遍的価値観にしがみつくあまり、アメリカ自身の価値観が否定されることを想定しておらず、思想面でのイノベーションを阻害している。
・アメリカも変わることが、アメリカが政治面でも真のイノベーション国家となる道である。

現在、米中は激しく対立しているものの、過去半世紀ほどの歴史を振り返ってみると、むしろアメリカが積極的に中国に関与し、支援してきたことが本書を読むとよく解ります。

アメリカにとっての中国には、「昨日の友は今日の敵」という言葉がぴったりとあてはまります。


アメリカは元々、冷戦時代に対立していたソ連を封じ込めるために、中国に接近しました。

ソ連と中国は同じ共産圏の国でしたが、決して一枚岩ではなく、むしろ国境をめぐって対立することもありました。

アメリカは「敵(=ソ連)の敵(=中国)は味方」という理屈で、中国に近づいたのです。

深刻な人権侵害があった天安門事件(1989年)が起きても、冷戦が終結しソ連が崩壊しても(1991年)、アメリカは中国への関与を止めませんでした。

2000年代に入る前後から、中国が徐々に国力をつけ始めました。

クリントンからブッシュの時代になると、中国の位置づけは「戦略的パートナー」から「戦略的競争相手」となり、中国を警戒する動きも見られるようになります。

しかし、2001年に9.11を経験したアメリカは、対テロ戦略の一環として中国と協力することを選び、中国もそれに同調しました。

潮目が変わったのは、オバマの時代です。

オバマは、就任当初こそ気候変動問題で中国と歩調を合わせることを目指しました。

ところが、中国の成長が経済的にも軍事的にも無視できないものとなると、オバマは中国を脅威としてとらえるようになります。

そして、トランプの時代には貿易戦争が勃発。現在のバイデンは、中国を完全に敵と見なしています。
実は、アメリカの歴史を俯瞰すると、「昨日の友」を「今日の敵」にしたケースが何度もあります。

第2次世界大戦では、ドイツを封じ込めるためにソ連と手を組みました。一方で、戦後はソ連と長く冷戦状態が続きました。

中東に目を向けると、アメリカはイランでパーレビ体制を支持していました。それなのに、ホメイニ革命を防ぐことができませんでした。

ホメイニ革命を機にイランを敵視するようになったアメリカは、今度はイラクの側に回ります。

イラクがクウェートに侵攻し、湾岸戦争が起きると、独裁者サダム・フセインの打倒を目指すようになり、イラク戦争でようやくその成果を得ました。

フセインと関係があるとされたアルカイーダは、元はと言えば、ソ連のアフガニスタン侵攻に対抗して、アメリカのCIAがアフガニスタンに作ったものです。

しかし、アルカーイダの幹部はやがて反米路線に転じ、9.11同時多発テロを引き起こします。

アルカーイダやタリバンといったイスラーム原理主義組織は、イスラームのワッハーブ派から派生したものです。

ワッハーブ派とは、イスラームの多数派であるスンニ派の一派で、サウジアラビアに多数存在します。

アメリカは友好国であるサウジアラビアに多くの武器を輸出しています。

他方で、その一部はイスラム原理主義組織に渡り、シリア内戦を深刻化させたIS(イスラム国)にも流れていると言われます。

かくして、アメリカは「味方に入れ込んでは新しい敵を作る」という歴史を繰り返しているのです。

これは、アメリカが「イノベーションの国」であることと無関係ではないと僕は考えます。

イノベーションとは、一言で言えば「既存の秩序を全破壊し、新しい秩序を構築すること」です。いわゆる「創造的破壊」と呼ばれるものです。

とはいえ、新しい秩序が完全に完成してしまうと、アメリカが最も恐れる全体主義に陥ります。

そこで、アメリカは自国が忌まわしき全体主義で包まれないように、敢えて新しい敵を作り、明日の攻撃対象を残しているのではないか?というのが僕の仮説です。

経済的なイノベーションの場合、A1、A2、A3…という製品群がイノベーションによって否定され、Bという標準的な新製品が生まれます。

製品Bは最初こそ市場を席巻しますが、やがて顧客の個別ニーズに応えるうちに、B1、B2、B3…という製品群が自然と生まれ、製品群の中で激しい競争が起きます。

B1、B2、B3…が激しく対立していると、それらの細かい違いを一気に乗り越える新しいイノベーションが起き、Cという別の標準的な新製品が登場します。

この繰り返しによって、経済は豊かになっていきます。

問題は、政治の場合、アメリカが自由・平等・人権・民主主義といった価値を「普遍的なもの」として強く信奉し、それにしがみつきすぎていることです。

アメリカはこれらの価値観に反する存在をただモグラ叩きのようにつぶしているだけで、実際には思想面のイノベーションが起きていません。

別の見方をすると、アメリカはアメリカの価値観がイノベーションによって否定されることを過度に恐れるあまり、自身がイノベーションの阻害要因になっていることに気づいていないと言えます。

アメリカは現在、ウクライナに侵攻したロシアを全体主義国家だと批判しています。

第2次世界大戦の際、アメリカはドイツを全体主義国家だと批判しました。

つまり、アメリカは半世紀以上にわたり世界をよくしようと努力してきたはずなのに、政治的な世界は第2次世界大戦から何一つ変わっていないことが、今回のウクライナ侵攻で露呈してしまったのです。

ロシアの戦争は決して許されるものではありません。

とはいえ、先日バイデンと会談した中国の習近平が、「アメリカこそロシアとの対話に乗り出すべきだ」と述べたのには一理あります。

アメリカも変わることが、アメリカを政治的にも真のイノベーション国家にする道ではないかと感じます。

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