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著者の藤田勝利氏は、外資系コンサルティング会社で勤務した後、30代でクレアモント大学院大学ピーター・ドラッカー経営大学院のMBAを取得した方です。


95歳まで精力的に活動したドラッカーの著書は非常に多岐にわたっており、「ドラッカー山脈」とも呼ばれます。その全部を読破するのはなかなか大変です。


ドラッカーの思想的頂点と言われるのは『マネジメント―課題、責任、実践』ですが、これだけでも全3巻あり、相当のボリュームになっています。


その要約版として『マネジメント〔エッセンシャル版〕』があるものの、個人的な印象としては論理的な飛躍や断定的な言い回しが多く、かえって内容の理解を難しくさせているかもしれません。


本書は、ドラッカーの思想をコンパクトにまとめた1冊であり、入門書として最適です。


「セルフマネジメント」、「マネジメントの目的」、「マーケティング」、「イノベーション」、「成果を上げる組織とチーム」、「会計とマネジメント」、「ITとコミュニケーション」という7つのパートに分けて、ドラッカー経営大学院で教えられていることを解りやすく解説しています。


僕の中で最も印象に残ったのは、次のくだりです。


「ここで再び思い出したいのが、ドラッカー教授のこの言葉です。


『人は強みによって雇われる。弱みによってではない』


当たり前に聞こえるかもしれません。しかし、採用時は『強み』の話がされているのに、入社すると『弱み』の話ばかりになってしまうのが多くの組織の現実です。


『弱みを補強すること、未熟な点を矯正することばかり考えている』という声を多く聴きます。


『自分の強み?入社以来、考えたことがない』という方も多いです。これでは、同僚や部下の強みを引き出し、その強みを発揮させる意識にはなりにくいでしょう」(p274-275)


ドラッカーは、「強みの上に築く(Bulid on Strengths)」という原則を繰り返し主張していたと言います。


この言葉は、企業研修に対して1つの反省を迫るものです。


というのも、引用文にある通り、一般的に研修というものは、社員に足りていない能力や知識を補う、一言で言えば弱みを克服するために行われるからです。


研修を設計する際には、通常次のような問いを立てます。


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Q.我が社はどんな事業戦略を実現しようとしているのか?(どんな顧客をターゲットに、いかなる製品・サービスを、どのような差別化要因で提供するのか?)


Q.その戦略を実現するためのあるべきビジネスプロセスや組織体制は何か?


Q.その組織体制にあてはめるそれぞれの社員には、どのような能力や知識を期待するのか?


Q.その人材要件と現在の社員の能力や知識レベルを比較すると、どんなギャップが存在するか?


Q.そのギャップを埋めるためにどんなトレーニングを実施するか?
────────────────


しかし、「強みの上に築く」という原則に従うならば、もっと別の問いを立てなければならないのかもしれません。


────────────────
Q.我が社はどんな事業戦略を実現しようとしているのか?(どんな顧客をターゲットに、いかなる製品・サービスを、どのような差別化要因で提供するのか?)
←この問いは変わらない。


Q.我が社の社員はどのような強みを持っているか?


Q.その強みはさらにどのように伸ばすことができるか?そのためにどんなトレーニングを行えばよいか?


Q.強化された強みを最大限に活かしてビジネスプロセスや組織を設計するとどのようになるか?


Q.そのビジネスプロセスや組織によって実現される戦略とは、結局のところ何か?
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前半の問いでは、戦略、ビジネスプロセス、組織のあるべき姿を企業側が定め、企業が要求する人材要件を充足するために研修を実施します。


研修のゴールはあらかじめ定められた戦略に向かっており、この点で収束的です。


これに対して後半の問いでは、戦略の方向性は定めるものの、社員の強みを活かすことでさらなる戦略の拡張を志向しており、発散的であると言えます。


もちろん研修は、社員の強みを伸ばすために行われます。


ただ、最も重要なのは、出発点となる強みとは一体何なのか、社員に内省を促す場として研修を活用することではないかと考えます。


僕は、それができている事業会社や、そのようなサービスを提供している研修会社をまだほとんど知りません。


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