
本書には13の論文が収められています。最も古いものは1946年、最も新しいものは1992年で、実に40年以上にわたって書かれた論文集です。
本書もまた、マネジメント、政治、経済、社会に対するドラッカーの鋭い洞察をうかがうことができます。
ドラッカーの主張は、割と「今となっては当然のこと」ばかりです。
けれども、その当然のことを述べるのに、非常に古い理論や事例を持ち出して、重厚なストーリーを披露するのが著述家としてのドラッカーの特徴です。
一方で、ドラッカーが遺した課題があることも私達は忘れてはならないでしょう。
【①経済】企業は利益を上げなければなりません。
とはいえ、利益は「未来の事業のためのコスト」であり、利益をやみくもにたくさん上げればよいというものではありません。「最小限の利益」なるものがある、とドラッカーは言います。
この論理を展開するのに、ドラッカーはケインズとシュンペーターの経済理論を取り上げます。
ケインズは、健全かつ正常な経済は均衡状態にあると考えました。
均衡状態では、企業の利益は理論上ゼロになります。経済の構造変化をもたらす大事件は、常に経済の外部からもたらされる例外と位置づけられました。
これに対してシュンペーターは、経済は永遠に成長変化するものであり、そのダイナミズムはイノベーションによって経済の内部から起きると論じました。
イノベーション(シュンペーターの言葉で言えば創造的破壊)を起こすために、企業は必要な利益を上げなければならない、というわけです。
しかしながら、ドラッカーは必要な利益が一体いくらなのか計算する方法を提示していません。
そのせいか、ドラッカーの影響を多分に受けた日本企業も、売上高を伸ばす目標はせっせと設定するのに、利益目標の正当性を適切に説明しているところは少ないと感じます。
【②技術】イノベーションとは単に技術革新のことを指すわけではありません。人々の慣習や価値観、社会や政治の制度までをも変えてこそ、真のイノベーションと呼ぶことができます。
真のイノベーションの最古の事例として、ドラッカーは何と古代の灌漑文明にまでさかのぼります。
灌漑文明は独立した恒久機関としての政府や、労働の専門分化による階層を生み出しました。
また、灌漑文明は初めて知識なるものを生み、それを体系化・制度化するとともに、部族に代わって個人や共同体、正義といった概念を生んだとドラッカーは言います。
ドラッカーは企業が起こすイノベーションと合わせて、「社会的イノベーション」という言葉を使うことがあります(『イノベーションと企業家精神』を参照)。
「企業のイノベーション」は顧客の消費行動や業界構造を一変させるものです。
「社会的イノベーション」とは、企業のイノベーションが引き起こした動乱が社会的な変化にまでつながり、広く社会の規範や制度の刷新をもたらすことを指します。
ただ、企業がどのような役回りを演じ、どのような活動を行えば、企業のイノベーションが社会的イノベーションにまで発展するのかという点について、ドラッカーは明確に論じていないと僕は理解しています。
【③社会】個人と社会はお互いに緊張関係にあります。
とはいえ、近代ヨーロッパでは、この点は必ずしも自明ではありませんでした。
ルソー、ヘーゲル、マルクスは常に、「機能する社会とは何か?」について論じました。その結果、社会が個人よりも優先され、社会が個人を抑圧する全体主義が生まれたとドラッカーは指摘します。
ドラッカーは、19世紀のデンマークの思想家であるキルケゴールに注目します。
キルケゴールは「人間の実存はいかにして可能か?」と問いました。
そして、精神における個人と社会における市民を同時に生きるという緊張状態によってのみ可能であると結論づけました。キルケゴールはドラッカーの思想的基盤になっています。
だが、とりわけドラッカーの初期の著書に顕著なのですが、
「マネジメントの機能は組織のニーズによって決まる」、
「マネジメントは『いかなる事業をしたいか?』からではなく、『事業はいかなるものであるべきか?』から出発しなければならない」
などの論調がしばしば見られます。
つまり、個人を取り巻く環境の事情が優先され、個人の意思や信条などが軽視されているような印象を受けるのです。
後期になると、
「知識労働者を組織に引きつけるために、マネジメントは知識労働者に対してマーケティングしなければならない。知識労働者の価値観や欲求を知らなければならない」
といった具合に、個人に対する配慮が見られます。
それでも、
組織のニーズと知識労働者のニーズが衝突する時はどうすればよいのか?
あるいは、そもそもマネジメントは外部環境のニーズに影響を与えるような意思を持ってはいけないのか?
という点が置き去りにされていると感じます。
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