IMG_20230207_181506_55420230207_エフェクチュエーション①
20230207_エフェクチュエーション②
20230207_エフェクチュエーション③

(しばらく更新が滞ってしまい申し訳ありませんでした!)

従来の経営学を端的にまとめるならば、

①企業の目的や経営理念を明確にし、
②自社の強みに基づいて、
③論理的な戦略を計画・実行する

という3点に集約されます。

ところが、僕が中小企業診断士として何百社もの中小企業・小規模事業者を観察して解ったのは、以下の事実です。

①明確な目的や経営理念を持っている経営者は非常に少ない。

目的や経営理念はしばしば経営陣の原体験、すなわち「過去にこういうことで困っている人に強く共感し、どうしてもその人たちを救いたい」、「過去に自分がこういう強烈な失敗をしたので、他の人にはそれと同じ目に遭ってほしくない」などの想いから導かれるが、そのような強い原体験がある経営者は限られている。

②強みとは、ピーター・ドラッカー風に言えば、競合他社を凌駕する卓越性のことである。しかし、冷たい言い方をすると、それほど明白な強みがあるならば、中小企業はとうの昔に大企業に成長しているはずである。強みがないからこそ、多くの中小企業は困っている。

③大企業でも、論理的な戦略を構想するには、内部に高給取りの戦略スタッフを抱え、さらに外部のコンサルティング会社に何千万、何億円ものフィーを支払って、何か月もの間入念な調査と議論を重ねなければならない。中小企業には、そのような資金も人員も時間もない。

だから、中小企業・小規模事業者の実態に合わせた経営学が必要だと考えています。僕がよく「新しい日本的経営」と呼んでいるものがそれです。

そして、本書はその「新しい日本的経営」のヒントがたくさん詰まった1冊でした(非常に専門的な話が多くて読むのに苦労しましたが・・・)。

エフェクチュエーション(effectuation)とは、インド出身の経営学者サラス・サラスバシーが「熟達した起業家」、つまり何度も起業を繰り返す人を調査して提唱したコンセプトです。

エフェクチュエーションの反対がコーゼーション(causation)であり、「最初に明確な目的を掲げ、その達成手段を論理的に導出する」というものです。まさに、従来の経営学が前提としている思考・行動様式です。

これに対して、エフェクチュエーションとは、「ありものの手段を活かして、望ましい結果を創り出す」のが特徴で、目的と手段の関係が入れ替わっています。

コーゼーションとエフェクチュエーションは、どちらがより優れているというものではありません。我々は日常生活の中で両方を経験しています。

料理を例にとると、作りたいメニューを最初に決めてから必要な材料を調達するのがコーゼーションです。他方、冷蔵庫の中の余った食材を組み合わせて料理をひねり出すのがエフェクチュエーションです。

ただ、どちらかと言うと、我々はコーゼーションよりもエフェクチュエーションに沿って行動していることの方が多いような気がします。

その最たる例が結婚です。コーゼーションで結婚する人はほとんどいないでしょう。つまり、「自分はこういう人生を歩みたい。そのためにはこんなパートナーが必要だ。そして、その候補を何人か見つけてきた。厳密な評価基準に従って、この中から最適なパートナーを選ぼう」などという結婚をした人を僕は周りで見たことがありません。

結婚とは、たまたま知り合った人を何かのきっかけで愛するようになり、2人で(あるいは子どもも含めて)幸せな人生を紡ぎ出していこうとするものだと思います。

サラスバシーは、熟達した起業家には5つの共通した原則があることを発見しました。

①「手中の鳥」の原則:既に手元にある資源や能力、知識、人脈などを明確化し、それらを使って何ができるかを考える。

②「許容可能な損失」の原則:初めから大きなリターンを求めて投資するのではなく、損失を想定してスモールスタートで事業を開始することで、失敗から学びながら次の機会を探る。

③「クレイジーキルト」の原則:競合他社も含めた多様なステークホルダー(従業員・取引先・顧客・政府など)と交渉しながらパートナーとして関係性を築き、パートナーの持つ資源を活用して価値を生み出す。
(※クレイジーキルトとは、色や大きさが異なる布を組み合わせたパッチワークのこと)

④「レモネード」の原則:予期せぬ事態に直面した際、避けたり、無理に合わせようとしたりするのではなく、機会ととらえて梃子として活用することで新たなチャンスを創り出していく。
(※英語には、「レモンをもらったらレモネードを作れ」ということわざがある)

⑤「飛行中のパイロット」の原則:将来の技術発展や経済動向などの外部要因を予測してチャンスを待つことに労力を使うのではなく、未来は自ら創り出すものととらえ、自身がコントロールできることに集中する。

コーゼーションとエフェクチュエーションを対比させたのが2枚目の図です。

コーゼーションでは、最初に外部環境分析を通じて事業機会の候補を発見し、競合他社分析やマーケットリサーチを行って、自社にとって最も魅力的な事業機会を絞り込みます。

そして、機会をものにするための事業計画を立案し、必要な資源や利害関係者を調達して、計画の実行フェーズに移ります。皆さんにとってはお馴染みのフローです。

これに対して、エフェクチュエーションの出発点は「手段の評価」です。サラスバシーは、「自分は何者か?(能力)」、「自分は何を知っているか?(知識)」、「自分は誰を知っているか?(人脈)」という3つが手段だと述べています。

この3つの手段をどうにか組み合わせて、今何ができるのかを決定します。そこに、周囲の人々を巻き込んで相互作用を起こし、彼ら彼女らからのコミットメントを獲得しながらビジネスを形作っていく、というステップになっています。

エフェクチュエーションの図はややとっつきにくいのですが、僕は中小企業診断士のキャリア開発がエフェクチュエーションに近いと感じています。

診断士に合格すると、まずは研究会や勉強会に片っ端から顔を出すように言われます。ただ、研究会や勉強会で何か知識を習得するというのは二の次で、終わった後の懇親会で人脈を形成することが重要だとされます。

懇親会で相互理解を深める中で、「この人と一緒に何か仕事をやったら面白そうだ」という話になります。そして、1つ仕事を終えると、紹介を通じて他の診断士、あるいは税理士や社会保険労務士など他の士業ともつながり、仕事の幅が広がっていきます。

逆に、コーゼーションで仕事をやっている独立診断士を僕はほとんど知りません。すなわち、自分の人生のミッションや目的を最初に明確に掲げ、それを実現するための事業を綿密にデザインしているような独立診断士を見たことがありません。

クライアントにはコーゼーショナルな事業戦略を勧める一方で、自らはエフェクチュエーショナルに動いている診断士が実は大半だと思うのです。

従来の経営学、つまり目的思考の経営学はマーケティングとイノベーションから構成されます。

マーケティングとは、市場ニーズが存在することを前提とし、将来の市場を予測してビジネスチャンスを現実のものにする経営です。事業環境に対する企業の態度は、どちらかと言うと受け身です。

他方、イノベーションとは、市場ニーズを読むことはもはや困難なので、イノベーターが理想とする世界を自ら予測・設計し、その実現に向けて環境に能動的に働きかける経営です。

エフェクチュエーションには目的思考がありませんから、場当たり的になります。場当たり的な経営と言うと一般には悪い印象を与えますが、僕は「よい場当たり」経営があってもよいのではないかと考えます。

悪い場当たりとは、事業環境が変化に満ちあふれているために、予測することを放棄し、環境の変化に完全に身を任せてしまうというものです。苦境に陥っている多くの中小企業がこれに該当します。

それに対して、よい場当たりとは、将来を予測はしないものの、今ここでできることに集中しながら環境と相互作用を起こし、少しでも望ましい未来を創り出そうとするものです。

マーケティング、イノベーション、悪い場当たり、よい場当たりの関係を図にまとめると3枚目のようになります。僕は、「よい場当たり」経営に、「新しい日本的経営」の可能性を見出しています。マーケティングやイノベーションだけではない第3の道があってもよいと考えます。

創業したての企業は、業績は芳しくありませんが、誰もが熱意に満ちて楽しく仕事をしています。ところが、悪い場当たりを続けていると、業績はそのままで苦しさばかりが増してしまいます。

アメリカの経営学者は、そうした事態を避けるために、マーケティングやイノベーションという手法を生み出しました。これらの手法を使えば、確かに業績は急激に伸びます。とはいえ、組織や仕事に対する要求水準が高くなり、緻密な経営が求められるため、苦しさの割合も大きくなります。

「よい場当たり」経営=「新しい日本的経営」は、マーケティングほどの高い業績は上げられなくとも、経営者や社員が楽しく仕事を続けられる経営になればよいと願っています。それが、多くの中小企業にとって救いになるはずです(4枚目の図)。

最後に、僕がサラスバシーの理論を活用しながら「新しい日本的経営」を構築するにあたって感じる課題を3つほど書いておきます。

①サラスバシーは、出発点となる手段として能力、知識、人脈を挙げているが、能力や知識を重視しすぎると、それはほぼイコール強みとなってしまい、明確な強みが乏しい多くの中小企業にとっては手の届かないものになってしまう。

僕は、どんな中小企業でも一定の人脈はあると思っている(少なくとも、現在取引がある顧客は貴重な人脈である)。人脈の価値を活用しながら、事業機会を創造する方法を探ってみたい。この点で、社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の議論が参考になりそうである。

②サラスバシーは、エフェクチュエーショナルに出発したベンチャーも、自社の事業内容が固まるにつれて、やがてはコーゼーショナルな経営に移行すると述べている。ただ、目的思考の経営には前述の通り多大な苦しみが伴う。また、目的思考の経営は、目的を同じくしないプレイヤーを排除する閉鎖的で攻撃的な経営になりやすい。

僕が望んでいるのは、多様な考え方を持つプレイヤーが常にお互いに楽しく変化し、なおかつ協調できるような社会である。その意味で、いつまでもエフェクチュエーショナルであり続けられるような経営を目指してみたい。

③サラスバシーは、エフェクチュエーションは直観ではない、と釘を刺している。エフェクチュエーションは論理であると強調している。

とはいえ、人間同士の相互作用を重視するならば、そこには論理よりも偶然が入り込む余地が多分にあり、直観の貢献度合いが大きくなるはずである。直観は頭で考えただけでは決して得られない。「ピンとくる」、「胸が躍る」、あるいは「冷や汗が出る」、「動悸がする」といった感覚、端的に言えば身体知にもっと着目してみたい。

#本の紹介
#ビジネス書
#読書
#読書記録
#本が好き
#本好きな人と繋がりたい
#読書倶楽部
#本スタグラム
#読書男子
#本のある生活
#おすすめ本
#やとろじー
#経営
#ビジネス
#経営コンサルタント
#経営コンサルティング
#コンサルタント
#コンサルティング
#中小企業診断士
#診断士