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僕が隔月で主宰している「ドラッカー勉強会」の第5回を2月下旬に実施しました。今回の題材は『イノベーションと企業家精神』でした。

イノベーションの「7つの機会」を体系的に整理した上で、それらの機会をものにするための戦略を論じ、既存の大企業、ベンチャー企業、公的機関がイノベーションに取り組む際のポイントをまとめた1冊となっています。

「7つの機会」とは以下の通りです。

①予期せぬ成功と失敗を利用する
 -予期せぬ成功:意外な顧客が意外な使い方で製品・サービスを購入していく現象に注目する。
 -予期せぬ失敗:周到に準備したのに失敗した原因を分析する。

②ギャップを探す
 -業績ギャップ:需要が伸びているのに業績がついてこないというギャップに注目する。
 -認識ギャップ:正しい努力をしているはずなのに業績がついてこないというギャップに注目する。
 -価値観ギャップ:自社の価値観が通用しない新しい顧客が出現したというギャップに注目する。
 -プロセスギャップ:プロセスの完遂を妨げる重大なギャップ・欠陥に注目する。

③ニーズを見つける
 -プロセスニーズ:プロセスの完遂を妨げる重大なギャップ・欠陥に注目する(⇒プロセスギャップと重複)。
 -労働力ニーズ:将来的に労働力が圧倒的に足りなくなる問題を解消する。
 -知識ニーズ:明確に理解し、明確に感じることのできる知識の欠落を埋める。

④産業構造の変化を知る:産業の急成長期に新しい産業構造を出現させる。

⑤人口構造の変化に着目する:人口統計学的に見て、数十年後に出現することが確実視されている特定の層をとらえる。

⑥認識の変化をとらえる:社会の認識・価値観の変化を利用する。

⑦新しい知識を活用する:いわゆる発明発見であり、歴史を変えるようなイノベーションが多い。

今回、個人的には10数年ぶりに本書を読み返したのですが、第一の感想は「これはイノベーションの本なのか?マーケティングの本ではないのか?」ということでした。

僕の理解では、マーケティングとは「既に存在する顧客ニーズを充足すること」であり、イノベーションとは「まだ存在しない新しい顧客ニーズを創造すること」です。イノベーションは顧客の従来の消費行動やマインドを一変させます。

「プロセスギャップ(プロセスニーズ)」や「労働力ニーズ」は、顧客側の明確なニーズを想定しています。「産業構造の変化を知る」は、市場が急成長している時に生じやすい機会とされ、これもまた顧客ニーズが既にあることを前提としています。それらの機会を取り込むことは、マーケティングではないか?と思えるのです。

実際、本書の終盤にはこんな記述もあります。

「読者の多くは『それはマーケティングの初歩にすぎない』というかもしれない。そのとおりである。マーケティングの初歩以外の何ものでもない。顧客にとっての効用、顧客にとっての価格、顧客にとっての事情、顧客にとっての価値からスタートすることは、マーケティングのすべてである」(p307)

投資ファンドに勤めている勉強会メンバーの1人は、「本書はイノベーションを仰々しいものではなく、多くの企業にとって手の届くものにした本である。徹底した顧客重視を説いた本である。実際、経営者が”狂気じみているほどに”顧客理解に努めている投資先は、業績を急回復させている」と話していました。

僕は、「7つの機会」のうち、①~⑥はマーケティングの話と理解しています。本当のイノベーションは⑦のみだと思います。

「イノベーションはつまるところ経済や社会を変えなければならない。それは、消費者、教師、農家、外科手術医の行動に変化をもたらさなければならない。プロセス、すなわち働き方や生産の仕方に変化をもたらさなければならない」(p162-163)

という定義の方がしっくりきます。

では、なぜそのような大がかりなイノベーションが必要なのでしょうか?それが経済を成長させてきたし、これからも成長させるであろうという答えでは不十分でしょう。

我々人間は、現状維持では死を迎えてしまいます。同じことの繰り返しでは、身体も精神も衰えていきます。だから、常に挑戦することが大切です。

挑戦とは何でしょうか?新たな願望や欲求が徐々に湧き上がってくるのを待って、改善を続けるだけでも十分に思えます。しかし、改善とは過去の資産に対する積み重ねの行為です。そればかりが続くと、我々の資産はどんどん肥大化していきます。肥満が不健康であるのと同様、資産の肥大化も我々の健康を害します。

だから、時々は過去を清算し、これまでのやり方、行動、考え、習慣を否定し、新しい規範や標準を自分の中に打ち立てなければなりません。我々に自己革新を促すのがイノベーションの意義です。イノベーションは人間を、そしてその集合体である社会を腐敗させないために必要なのです。

最後に、やや話が逸れますが、経営コンサルタントとして顧客企業の経営者と向き合う際の心構えを説いた文章があったので引用します。

「創業者の判断や強みを問題にできる外部の人間が必要である。創業者たる企業家に対し、質問をし、意思決定を評価し、市場志向、財務見通し、トップマネジメント・チームの構築など生き残りのための条件を満たすよう絶えず迫っていく必要がある」(p245)

相変わらず、ドラッカーは読み手に厳しい要求を突きつけてくるものです。僕は経営コンサルタントをもう17年ぐらいやっていますが、恥ずかしながらなかなかこのレベルにまでは到達できていません。

「社長のやりたいを形にする」が僕のモットーなので、基本的には社長の望むことをそのまま実現できるよう支援することが僕の仕事の第一だと思っています。8~9割はそのスタンスを保ちたいと考えています。

しかし、残り1~2割は、「これまで社長のやりたいという想いで成功してきたことを今後もそのまま続けてよいか?事業環境や組織は変化していないか?」、「これからやりたいと目論んでいることの前提条件は間違っていないか?」などと、経営者に鋭く問いかけられる第三者でありたいものです。

《過去のドラッカー勉強会》
【第1回】『経営者の条件』
https://tomohikoyato.livedoor.blog/archives/14451844.html
【第2回】『現代の経営(上)』
https://tomohikoyato.livedoor.blog/archives/15276360.html
【第3回】『現代の経営(下)』
https://tomohikoyato.livedoor.blog/archives/16383861.html
【第4回】『非営利組織の経営』
https://tomohikoyato.livedoor.blog/archives/17674693.html

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