
【書き下し文】
子の曰(のたまわ)く、巧言令色(こうげんれいしょく)、鮮(すく)なし仁。
(学而第一 第三章)
【現代語訳】
先生がいわれた、「ことば上手の顔よしでは、ほとんど無いものだよ、仁の徳は。」
「仁」とは、孔子がその教えの根本に据えた考え方で、一言で言えば「他人を思いやる気持ち」のことです。孔子が生きた中国の春秋・戦国時代は、周王朝が衰退して諸侯が天下を争っていた乱世でした。
当時の世の中の乱れは、他人を思いやる愛情が失われていったことが原因であり、真心や思いやりを大切にして人を愛する心を取り戻すことが何よりも大切だと孔子は説きました。
仁の心は、「巧言令色」、すなわち巧みな言葉を並べ立てたり、外面(そとづら)をよくしたりすることでは到底得られません。
多くの企業は経営理念を掲げています。経営理念は、企業が目指す方向性、企業が実現したい理想像を表すので、基本的にはよいことが書かれています。
ただ、それが当たり障りのない美辞麗句になってはいないでしょうか?企業名を挿げ替えても通用するような抽象度の高いものになってはいないでしょうか?
僕は、よい経営理念とは、創業者や経営陣の「原体験」から導かれると考えます。原体験とは、自らの性格や価値観、その後の人生に強烈な影響を与える出来事のことです。原体験は個人に固有のものであり、その固有性に根差した経営理念には得も言われぬ迫力があります。
原体験から経営理念を導くタイプには、以下の4つがあります。
《①共有》
自分の成功を他者と共有するタイプです。例えば、自分がいくつかの事業会社を渡り歩いてマーケティングで高い成果を上げたことをきっかけに、そのエッセンスを世の中に広めるためにマーケティング支援会社を設立する場合が該当します。
《②教訓》
自分の失敗と同じ目に他者を遭わせたくないという想いが出発点となるタイプです。例えば、出産後に首尾よく仕事に復帰できなかった経験を持つ女性が、子育てをしながらでも長く働ける企業や社会作りに取り組む場合が該当します。
《③憧れ》
他人の成功に憧れ、それを別の人にも広めようとするタイプです。ハワード・シュルツ氏は、イタリアのカフェ文化に遭遇した際、それをアメリカに持ち込めば、アメリカで失われつつあるコミュニティの場を復活させられるに違いないと確信してスターバックスを創業しました。
《④共感》
他人の失敗に心を痛め、これ以上同じ目に遭う人を増やしたくないという想いからスタートするタイプです。商店街が衰退し、大手スーパーも撤退してしまった地方都市において、買い物難民となり日々の生活に苦労している高齢者のために、移動販売事業を始めるケースが該当します。
創業者や経営陣の原体験に基づく経営理念には、どこか「ごつごつとした手触り感」があります。血の通った、生きたエネルギーを持っています。
《④共感》で挙げた移動販売事業で最近急成長している企業の1つとして、徳島県の「株式会社とくし丸」が挙げられるでしょう。とくし丸の経営理念は、「おばあちゃんのコンシェルジュを目指す」というものです。この言葉遣いに、どこか人間の息遣いや温かみを感じませんか?
仮に、「お客様目線に立ち、お客様満足度を最大化します」といった経営理念だとしたら、何の面白みもないでしょう(案外、こういう経営理念を掲げている企業は多いものです)。
原体験に根差した経営理念は、事業における重要な意思決定を下すのに役立ちます。とくし丸の例で言えば、
「経営理念を実現するためにターゲットとすべき『おばあちゃん』とは具体的に誰なのか?何歳から何歳ぐらいの人で、どの地域に住み、どんなライフスタイルを送り、どんな価値観を持った人なのか?」、「逆に、ターゲットとすべきでない『おばあちゃん』とは誰なのか?」
「ターゲットである『おばあちゃん』にとって、『コンシェルジュ』となるために我が社が提供すべき製品・サービスは何か?その製品・サービスは他社から調達すれば十分か?それとも自社で製造するべきか?」、「逆に、『コンシェルジュ』となるのにふさわしくない製品・サービスは何か?」
といった問いを経営陣に投げかけ、議論することができるようになります。
「お客様目線に立ち、お客様満足度を最大化します」のような経営理念の場合、「経営理念を実現するためにターゲットとすべき『お客様』とは何か?」、「そのお客様の『満足度を最大化』するために提供すべき製品・サービスは何か?」という問いは、あまりにも一般的すぎます。
世界中の潜在顧客と世界中の製品・サービスの中から絞り込むという、途方に暮れるような分析作業を行わなければなりません。取捨選択の尺度がありませんから、たいていは最も儲かりそうな事業に次から次へと飛びつくという、自社都合で基軸のない経営になりがちです。
これでは、本当の意味で顧客のためになる経営とはなりません。顧客に対する思いやりのある経営、つまり仁のある経営にはなりません。
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