
著者の西口一希氏は、P&G、ロクシタンを経て、「スマートニュース」をアプリランキングで100位圏外からNo.1へと伸ばした方です。その実践的なマーケティングの方法が惜しみなく解説されています。
まず、顧客を次の5つのセグメントに分類します。
①ロイヤル顧客:認知あり/購買頻度・高
②一般顧客:認知あり/購買頻度・中~低
③離反顧客:認知あり/購買経験あり/現在購買なし
④認知・未購買顧客:認知あり/購買経験なし
⑤未認知顧客:認知なし
次に、①~④については、さらに「積極/消極ロイヤル顧客」、「積極/消極一般顧客」、「積極/消極離反顧客」、「積極/消極認知・未購買顧客」に分けます。「その製品を次回も購入したいか?」という問いに対してYesと回答する人は「積極」、Noと回答する人は「消極」に分類されます。
これによって、顧客は全部で9つのセグメントに分けられます。
購買頻度が高いロイヤル顧客でさえ積極/消極に分けるのは興味深い視点です。というのも、購買頻度が高くても、その製品やブランドが心から好きで頻繁に購入しているのではなく、単に他に選択肢がないからという場合もあるためです。
例えば、自宅の近くに1軒しかスーパーがないとして、週に何度もそこで買い物をする顧客は、購買頻度だけを見ればロイヤル顧客です。しかし、そのスーパーに取り立てた差別性がなければ、近くに魅力的なスーパーが進出してきた途端に離反するでしょう。その意味で、この顧客は消極ロイヤル顧客なのです。
顧客を9つのセグメントに分類した上で、認知度や購買頻度を高める(⑤⇒④、④⇒③、③⇒②、②⇒①へと移行させる)ための施策を「販売促進」、次回の購買意欲を高める(「消極」から「積極」へと移行させる)ための施策を「ブランディング」と呼びます。
販売促進にせよ、ブランディングにせよ、顧客にとって独自性と便益をもたらす「アイデア」が必要だと著者は言います。そして、アイデアを考え出す際に大切なことが2つあります。
1つは、アイデアには「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」の2つがあり、プロダクトアイデアが絶対的に必要で、コミュニケーションアイデアはプロダクトアイデアに従うものだということです。
言い換えれば、製品やサービスそのものに独自性と便益がなければならず、例えば広告やDMなど、顧客とのコミュニケーションだけがどんなに魅力的でも意味はありません。製品やサービスの差別化が難しい現代において、とかく我々は奇をてらった、凝ったCMなどに頼りたくなりますが、それだと成功はおぼつかないと著者は手厳しいです。
もう1つは、本書のタイトルにもありますが、アイデアを導くための調査は、統計学的に有効な一定のサンプル数を集めなくてもよく、極端なことを言えば「たった1人の顧客の声をじっくり聴く」だけで十分だということです。
自分が愛するたった1人のためにプレゼントを贈る場合と、1,000人に受け入れられるプレゼントを贈る場合とで、どちらの方がより魅力的なプレゼントを思いつきやすいか考えてみると解りやすいでしょう。
著者は、スマートニュースの認知度や使用頻度を上げるために、「英語ニュースチャンネル」と「クーポンチャンネル」という2つのプロダクトアイデアを実践しました。前者は著者の妻の意見から導かれ、後者は著者の知り合い数名から実際にスマホを使う様子を見せてもらううちに思いついたものだそうです。
僕も、著者のように、少数の顧客の声にじっくりと耳を傾け、少数の顧客の行動をじっくりと観察することで、顧客の潜在ニーズを抽出するという方法には大賛成です。
経営コンサルタント/中小企業診断士という仕事柄、多くの企業の新規事業計画書を読む機会がありますが、潜在顧客のことを深く考察している計画書は残念ながら非常に少ないです。
複数の統計データを組み合わせて、独自に需要予測をしているならまだマシな方です。
インターネットで簡単に手に入る市場調査会社の公表データを用いて、「この市場は成長が見込まれるから、この市場への参入を決めた」と安易に結論づけているケースが多すぎます。あまり腕のよくない外部のコンサルタントに計画書の作成を丸投げすると、こういうことがよく起きます。
皆が同じデータを見て、同じ市場に同じように参入したら、同質化してしまいます。企業は顧客から選ばれることによって存続し、利益を上げることができます。そして、顧客から選ばれるための源泉は、差別化です。
差別化のアイデアは、平均的な顧客のニーズからは得られません。誤解を恐れずに言うと、少し歪んだ顧客ニーズからもたらされるものです。だから、平均を代表しないような、少数の潜在顧客に敢えて着目する必要があるのです。
ところで、少数の顧客を簡易的かつ具体的にイメージする手法として、特定の年齢、性別、仕事、家族構成、ライフスタイル、価値観などを持った仮想の人物を設定する「ペルソナマーケティング」と呼ばれるものがあります。
僕も何社かでペルソナを見せてもらったことがありますが、「これは結局のところ、企業が自らのマーケティング施策を説明しやすくするために、自社都合で設定しているにすぎないのではないか?」とモヤモヤしたものを感じていました。
著者はペルソナマーケティングに対して、次のように痛快な批判を加えています。
「複数人で会議室にこもったり、合宿をしたりして、『当社のお客様はこんな方……』と作ったものの、実態としてそれは多種多様な方々の組み合わせであり、実際には存在しない(中略)
そんな時間を使うくらいなら、実在のロイヤル顧客さんの話を徹底的に聞いて、ご本人が自身を理解している以上にこちら側が理解するくらいのN1分析をしたいです」(p83)
マーケターは外の世界に出て、リアルの顧客に会いましょう。
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