
『マネジメント・フロンティア』(1986)、『すでに起こった未来』(1994)、『未来への決断』(1995)と同様、ドラッカーが様々な雑誌に寄稿した記事や論文を1冊にまとめたものです。本書はドラッカーが80歳前後に書き記した文章が中心となっており、歳を重ねていよいよ筆の勢いが増すのには、いつもながら驚かされます。
本書を読んでみて、「ドラッカーが嫌いなもの」が5つあることに気づきました。
【①進歩主義】
1873年、それまで続いていた自由放任の時代は、ウィーン市場の崩壊とそれに続く各地の恐慌によって終わりを迎えた。代わりに、政府が進歩的大義を掲げ、社会主義的な政策を推し進める時代が続いた。しかし、それも1973年の石油ショック、ドルの変動相場制移行によって終わった。
政府は、様々な社会的課題を解決するにはあまりにも大きくなりすぎた。大きすぎる政府による画一的な施策では、社会の諸問題を解決することができない。特定の課題にフォーカスすることで成果を上げることに長けた民間の力を借りる、すなわち「民営化」が求められている。
【②ケインズ経済学】
ケインズ経済学は、主権国家が世界の経済における圧倒的に支配的な経済単位であり、効果的な経済政策を取り得る唯一の経済単位であることを前提としている。
しかし、ヒト、モノ、カネ、情報といった資源がグローバル規模でこれほどまでに密接に行き交い、つながり合っている現代においては、ケインズ経済学はもはや機能しない。今求められているのは、国内経済とグローバル経済とを融合させる新しい経済理論である。
【③大いなる善を追求する非営利組織】
非営利組織は企業とは異なり決算がないため、自らの事業の有効性を判断できるようにするために、企業以上に明確な使命を必要とする。しかし、使命は大いなる善であってはならない。「世界中から貧困を撲滅する」といった、およそ達成不可能な使命を設定してはならない。
非営利組織の使命は、ターゲット顧客を想起することができ、自らの具体的な行動につながるものでなければならない。そのような使命によってこそ、非営利組織は自らの成果を測定することが可能となる。
【④法人資本主義】
法人資本主義とは、株主、金融機関、顧客、取引先、従業員など、企業を取り巻くあらゆる利害関係者の利益をバランスさせることが経営者の責任であるとする考え方であり、1960年代に注目されたものである。
しかし、啓蒙専制君主のように振る舞う大企業の経営者は、目立った成果を上げることができなかった。大企業経営者の失政は、その株式を所有する年金基金のパフォーマンスにも影響を及ぼし、運用実績を欲しがった年金基金は乱暴な敵対的買収に簡単に応じてしまった。
経営者の責任とは、「富の創出能力を最大化すること」でなければならない。そして、富の源泉とは、古典的経済学が言うような土地でも、マルクス経済学が言うような労働でもなく、知識に他ならない。
【⑤一律のコスト削減策】
本社のスタッフ部門は、営業費、マーケティング費、研究開発費、その他間接費を一律何%削減せよと全社に命じることがある。そのようなキャンペーンは一時的には効果があっても、すぐに再び元のコスト水準に戻ってしまうものである。
コストそのものに着目するのではなく、社員の活動に焦点を当てなければならない。そして、「社員が多大な労力を費やしているのに、大した成果につながっていない活動とは何か?」、「その活動を今すぐ止めても事業への悪影響はないか?」と問わなければならない。
こうしてドラッカーが嫌いなものを並べてみると、ドラッカーは「一部の限られた人間が、統一された高邁で普遍的な理想を実現させること」が嫌いなのだろうと感じます。つまり、革新主義的な発想が嫌いなのです。ドラッカーも自らのことを保守主義者だと言っています。
18世紀の啓蒙主義に端を発し、19世紀後半~20世紀前半にかけて世界を席巻した革新主義は、忌まわしき全体主義をもたらしたという暗い過去があります。ドラッカーは初期の著書『「経済人」の終わり』(1939)でこのことを指摘しました。ドラッカー自身、ナチスの迫害を逃れてウイーンからアメリカへ渡った人間ですから、全体主義のことを強く敵視しています。
とはいえ、革新主義的な大きな理想がパラダイムシフトを引き起こし、文明を大きく進歩させたという点も否定できません。ドラッカーは革新主義者の情熱、意思、勤勉、努力をやや過小評価しているようで、そこにドラッカーの1つの限界があるのかもしれません。
必要なのは、革新主義の負の側面が露呈しないよう、保守主義と革新主義とを調和させる発想だと思います。
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