淡い、赤、ミニマリスト、テキスト、引用、旅、Instagram投稿
20230519_PPM①20230519_PPM②

僕が隔月で主宰しているドラッカー勉強会の第6回が終了しました。毎回、「ドラッカー名著集全15冊」から1冊を選んで読後感想を共有するというもので、今回の題材は『創造する経営者』でした。

1964年に初版が発表された本書は、世界で初めて「事業戦略」について論じられた本だとされます(同時期にロシアの経営学者イゴール・アンゾフも戦略についての書籍を発表しているので、どちらが戦略の父であるかは意見が分かれるところではあります)。

「戦略」という軍事用語を企業経営に持ち込むことには反対の声もあったようで、原題にはStrategyという言葉は用いられておらず、Managing for Resultsとなっています。

現在では事業戦略と言うと、事業の将来目標を設定し、現状とのギャップを埋める施策を立案することを指します。つまり、事業の明日を創造することを意味します。しかし、ドラッカーは、明日を創るためにはまずは今日の事業で成果を上げなければならないとし、現在の事業を診断することに多くのページを割いています。

その内容はかなり込み入っているのですが、要するに各製品・サービスの「利益貢献度」や「市場におけるリーダーシップと見通し」を分析し、両者が良好な製品・サービスに一級の人材と資金を投入しなければならない、ということだと僕は解釈しています。

これを図で示せば2枚目の図のようになります。「利益貢献度」と「市場におけるリーダーシップと見通し」の2軸でマトリクスを作ると、製品・サービスを4タイプに分類することができます。

①「利益貢献度」大&「市場におけるリーダーシップと見通し」大=今日の主力製品
②「利益貢献度」小&「市場におけるリーダーシップと見通し」大=明日の主力製品
③「利益貢献度」大&「市場におけるリーダーシップと見通し」小=昨日の主力製品
④「利益貢献度」小&「市場におけるリーダーシップと見通し」小=失敗製品

④は企業の資源を浪費する存在であるため、撤退します。その一方で、③で稼いだ利益を②に投資して①に育て上げていくことが重要となります。

この考え方は、後にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)によって「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)」というフレームワークにまとめられました。PPMでは、「相対的市場シェア」と「市場の成長率」の2軸でマトリクスを作って製品を4つに分類します。

①「相対的市場シェア」大&「市場の成長率」大=花形
②「相対的市場シェア」小&「市場の成長率」大=問題児
③「相対的市場シェア」大&「市場の成長率」小=金のなる木
④「相対的市場シェア」小&「市場の成長率」小=負け犬

④からは撤退する一方で、③で稼いだ利益を②に投資して①に育て上げていくべきだというのがPPMの趣旨です。

ドラッカーは、「利益貢献度」を判定する際に、ユニークな考え方を用いています。

通常、それぞれの製品・サービスの利益を算出する場合には、まずは変動費を引いて限界利益を求めた上で、共通費用である固定費を製品・サービスごとに按分し、それを限界利益から引きます。

ところが、営業費、物流費、倉庫保管費、事務作業費、その他間接費の按分は、あまりにも恣意的に行われていることをドラッカーは問題視します。ドラッカーは、それらのコストは「作業量」によって按分すべきだと主張します。

たとえば、A、B、Cという3つの製品を扱っている営業担当者の人件費について考えてみましょう。我々はしばしば、各製品の粗利から、営業担当者の人件費を3等分した額を引いた金額をそれぞれの製品の利益としてしまいがちです。しかし、実際には、A、B、Cの製品を販売する作業量には差があります。

もちろん、営業担当者がそれぞれの製品を販売するのに何時間を要したかを正確に測定することは困難です。とはいえ、例えば顧客への訪問件数、作成した見積書の数など、各製品を販売するのに要した労力を”代表する”いくつかの指標を用いることで、より実態に近い利益を算出することが可能になるとドラッカーは言います。

勉強会のメンバーは、「本書は『選択と集中』の重要性について書かれた本だ」と端的にまとめてくれました。一方、別のメンバーは、「『専門化と多角化のバランス』を取ることが大切だとも書かれている」と指摘しました。

ドラッカーは次のように言います。

「企業は、製品や市場を最終用途において多角化し、基礎的な知識において高度に集中しなければならない。あるいは、知識において多角化し、製品や市場や最終用途において高度に集中化しなければならない。この中間では、満足すべき成果はあげられない」(p279-280)

集中と多角化のバランスを取るには2つの道がある、というわけです。ところが、知識に関しては、ドラッカーは別の箇所で次のようにも述べています。

「多くの領域において卓越することはできない。しかし、成功するには、きわめて多くの領域において並以上でなければならない。いくつかの領域において有能でなければならない。1つの領域において卓越しなければならない。

市場が経済的な報酬を与えてくれるような真の知識をもつためには、集中が必要である」(p155-156)

卓越した知識は集中によって得られます。となると、卓越した知識をいくつも持った上で製品、市場、最終用途において高度に集中するという道は、実は現実的ではなく、知識において高度に集中し、製品、市場、最終用途において多角化するのが戦略の定石だと言えそうです。

集中した知識を強みとして活かす経営は、ゲイリー・ハメル、C・K・プラハラードが後に「コアコンピタンス経営」としてまとめました。

しかし、ここで僕は思うのです。確かに、ドラッカーの言う事業戦略やハメルらのコアコンピタンス経営を実現できれば、一流の偉大な企業になれるでしょう。しかし、果たして卓越した知識や強みに集中することが可能な企業は、一体どれほど存在するのか?と。120点の競争力がある武器を持つ企業が一体どれほど存在するのか?と。

100点のものを120点へと磨き上げるには、途方もない努力が必要です。しかも、努力が必ず報われるとは限りません。それに比べれば、60点のものを80点へと引き上げるのは割と簡単です。結果もすぐに出ます。

非常に雑駁な見立てですが、多くの中小企業は、80点の武器1個で勝負を挑んでいます。だから、120点の武器を持つ大企業やグローバル企業と正面衝突すると、途端に苦境に陥ってしまいます。

一方で、中小企業やそこで働く人たちには、60点ぐらいの未活用の資源がたくさんあるはずです。卓越性と呼ぶにはほど遠いが、他社/他人よりもちょっと得意、他社/他人よりもちょっと好き、といった類のものです。

1個の80点を100点、120点へと強化するのではなく、同じ労力を使って60点からたくさんの80点を生成する。それらの組み合わせによって独自性を発揮する。一流の偉大な企業にはなれなくても、その独自性によってコアなファンを獲得し、大企業やグローバル企業との競争を避けながら、何とか生き残っていく。

そういう経営の方向性があってもよいのではないか?と僕は考えています(最近僕がよく言っている「新しい日本的経営」というものです)。

120点の卓越性を持つ一流の企業や人材は、誰もがうらやむところです。ただ、一流になることが楽しいかと言われると、それは別問題です。例えば、大谷翔平選手は確かに素晴らしいですが、大谷選手のような人生が楽しいとは断言できないように感じます。

大谷選手が好む「塩パスタ(文字通り、塩だけで味つけされたパスタ)」を見て、侍ジャパンで同じチームだったソフトバンクの近藤健介選手が「人生楽しいの?」と疑問を呈した、というエピソードもあります。

我々は皆が大谷選手のように一流のパフォーマンスを残すことができるわけでもないですし、またそう望んでいるわけでもありません。それなりのパフォーマンスで、楽しく仕事をしたいという企業、楽しく人生を送りたいという人も相当数いるはずです。

楽しさの条件の1つは、「様々なことがそこそこできること」だと思います。多趣味な人、多芸な人は独自のポジションを築いて楽しそうにしていますし、見ている側も楽しい気持ちになります。

芸能界で言うと、所ジョージさんが近いかもしれません(もっとも、芸能界自体が一流の才能の集まりなので、その中で例を探すことは適切でないのかもしれませんが…)。

仕事とは厳しく辛いものだという価値観は、今の時代にそぐわないものです。最近は「仕事を楽しむ」という表現も使われますが、仕事を意図的に楽しまなければならないということは、仕事とは本質的に苦行であることを前提にしています。そうではなく、「仕事自体が心の底から楽しい」と思えるような新しい経営学を僕は模索していきたいです。

#本の紹介
#ビジネス書
#読書
#読書記録
#本が好き
#本好きな人と繋がりたい
#読書倶楽部
#本スタグラム
#読書男子
#本のある生活
#おすすめ本
#やとろじー
#経営
#ビジネス
#経営コンサルタント
#経営コンサルティング
#コンサルタント
#コンサルティング
#中小企業診断士
#診断士