
《要点》
◆社会主義を労働者による生産手段の所有と定義するならば、アメリカこそ史上初かつ唯一の真の社会主義国である。今日、アメリカの民間企業の被用者は、その私的年金基金を通じて、少なくとも全産業の株式の4分の1を所有する。これは、全産業を優に支配しうるだけの株式に相当する。
◆アメリカの年金基金は、自社株のみに投資する産業民主主義ではない。また、スカンジナビア諸国に見られるような民主社会主義(企業の利益から国全体をカバーする全国年金基金へ拠出を行わせ、これを労働組合によって管理させるとともに、国内企業に投資させるというもの)でもない。多数の年金基金が分散投資を行っている点で優れている。
◆高齢化の進行によって、年金基金から老後資金を受け取る人が増えると、被用者が拠出すべき金額が増える。つまり、被用者の消費を削って高齢者の消費に回すことになる。この点で、被用者と高齢者の対立が深まる可能性がある。それ以上に深刻なのは、社会全体として資本形成が進まず、経済の発展が妨げられるという問題である。
◆年金基金は、正確には所有者ではなく投資家であり、支配することを望まない。企業側から見れば、企業の経営管理者は、責任を取るべき相手がいなくなったことを意味する。したがって、企業はその事業を監督してくれる効果的な取締役会を必要とする。取締役会は、企業の利害関係者、すなわち①消費者、②被用者、③投資者である年金基金を代表する者によって構成されなければならない。
◆これからの時代は、生産資源の供給不足という制約の中にあって、特に知識労働者と資本の生産性向上を通じ、財やサービスの生産を急増させることが喫緊の課題となる。政府や地方自治体などの公的機関も例外ではない。さもなくば、インフレによって、実質所得も生活水準も低下してしまう。
◆年金基金社会主義は、被用者の代表である労働組合の弱さをさらけ出す危険がある。労働組合は、経営管理者の権力に対抗する力としての機能を失うことなく、被用者の持つ2つの面、すなわち①(賃金という短期利益を求める)被用者としての被用者と、②(将来の年金という長期利益を求める)所有者としての被用者を総合して代表することのできる存在とならなければならない。
◆ロックの「人は財産に対する権利を有する。なぜなら彼は、そこに自らの労働を投入しているからである」という言葉に照らし合わせれば、年金に関する個々の被用者の権利、すなわち年金権はまさに財産である。我々はこの新しい形の財産を、政府の圧力、政策、命令などのため、間違った投資に向けられてしまう危険から守るべきである。
◆我々はこれからの時代において、2種類の平等主義を目にすることになる。いずれも、機会の平等ではなく、結果の平等を要求する。しかしこの2つの平等主義は、不平等を是正するための手段について真っ向から対立する。
昔からの弱者グループ、例えば生活困窮者や黒人などは、生産性や効率を犠牲にしてまでも、再分配や逆差別などによって平等を実現せよと要求し続ける(福祉国家)。これに対して、新しい弱者グループである退職した高齢者は、補償など要求せず、効率の向上による社会全体のパイの拡大を通じた不平等の是正を求める(福祉社会)。
退職した高齢者が新しい利害関係者として団結し、アメリカ政治の再編を迫る中、果たして政治は福祉国家と福祉社会の対立という問題を解決することができるだろうか?
《感想》
本書は、「労働者が年金基金を通じて企業を所有するアメリカは初の社会主義国家である」という衝撃的な主張から始まります。さらに、高齢社会の到来と結びつけて、この社会主義が政治的、経済的、社会的にどんな影響をもたらすのかを論じた、ドラッカーならではの1冊です。
ドラッカーは個人的にこの書籍を大変気に入っていたみたいですが、世の中にはあまり受け入れられなかったと後のインタビューで語ったことがあります。
確かに、《要約》の最後に書いた「2つの平等の対立」に関しては、パイを拡大しながら再配分を行う道が現実的にはありうるのであり、ドラッカーはいたずらに対立を煽っているような印象を受けます。細かいところをつつけば、ドラッカーの論理に反対することも可能です。
ドラッカーは、「生産手段の所有者である労働者は、生産手段が力を有するがゆえに、その力に応じた責任をもっと果たさなければならない」と言いたかったのではないかと僕は考えます。
現代の労働者は、2種類の生産手段を所有しています。1つは、本書で繰り返し述べられているように、年金基金に拠出している資本です。そしてもう1つは、本書ではあまりウェイトが高くありませんでしたが、知識労働者が自らのよりどころとしている知識です。
ドラッカーは本書以外に、知識と資本の生産性を高めなければならないと、くどいほど主張しています。まずは知識労働者として、自らの仕事の成果を最大化することが重要です。成果を定義し、意思決定を下し、優先順位をつけ、仕事の順序を組み立て、成果に対するフィードバックを得、仕事を改善しなければなりません。
そして、資本の生産性を高める必要があります。資本の生産性を高めるとは、生産性の低い領域から高い領域へと資本を移動させることを指します。年金基金が行う投資の仕事とはまさにそういうものです。しかし労働者もまた、年金基金に資本を拠出して終わりとするのではなく、年金基金の仕事に関心を持ち、参画し、ポジティブな資本移動を促すことが求められるのでしょう。
知識労働者は自らの仕事に集中しますが、年金基金に対する資本の拠出者としては、一国の経済の中長期的な成長に関与することとなります。ドラッカーは、我々がミクロとマクロ両方の視座を持つようにと要求しているのです。
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