
《要点》
◆理論では「説明」と「理解」という言葉がよく用いられる。説明とは、経験的に出来事の原因と結果を関連づけることを言う。国際関係に客観的な現実が存在することを前提とする。パワー、経済、領土などの物質的要因が実際の国際関係を形成しているとする。
一方、理解とは、事象を解釈したり、意味を把握したりすることを指す。基本的に、国際関係を形成する要因としての主観性を重視している。知識や理念、アイデンティティなどの非物質的要因こそが国際関係を形成する。主要な国際関係理論を図示すると、下図のようになる。


◆政治学には「定量的方法論」と「定性的方法論」の2つのアプローチがある。
『社会科学のリサーチ・デザイン』は、①定量的研究から定性的研究へ方法論を転用することができる、②個別事例を深掘りしても記述的推論にとどまり、因果的推論に至らない、③事例研究においては、従属変数が高い事例と低い事例の両方を選択すべきであり、できれば独立変数の選択もそうすべきである、④効用、文化、意図、動機、自己認識、知性、情報、国益といった観察できない概念よりも、軍事力のような観察できる概念を可能な限り用いなければならない、などと説いた。
これに対しては、『社会科学の方法論争』、『政治学のリサーチ・メソッド』によって様々な批判が加えられている。定量的方法論と定性的方法論は相互補完的である。
◆国際関係の分析のレベルに関しては、ウォルツの『人間・国家・戦争―国際政治の3つのイメージ』が最も参考になる。ウォルツは、人間、国家、国際システムという3つのイメージから、国家の対外行動のパターンや国際政治の特徴、戦争の原因を考察した。
分析のアプローチとしては、①合理的選択アプローチ(限られた情報の下で、アクターが自己の利益を最大化するための選択をする)、②制度的アプローチ(制度=社会のルールが政治過程や政策決定過程に影響を与える)、③文化的アプローチ(アイデンティティ、アイデア、文化、価値、認識、規範などが国家の行動や政策に影響を与える)の3つを挙げることができる。
◆【リアリズム】リアリズムは、国家が国益を最大化するためにパワーを追求すると説く。国際政治の現実を説明するのには非常に有効だが、道義や倫理、正義を軽視しているとの批判も根強い。
①クラシカル・リアリズム=国家にパワーを求めさせるのは、国家そのものに備わっているパワーへの欲望であり、国家は覇権達成のために、相対的なパワーを最大化する。
②攻撃的リアリズム=国家は世界が無政府状態であるためにパワーを求める。国家は覇権達成のために、相対的なパワーを最大化する。
③防衛的リアリズム=国家は世界が無政府状態であるためにパワーを求める。ただし、安全保障さえ確保できれば持っているもの以上は求めず、国家は既存のバランス・オブ・パワーの維持に集中する。
④ネオクラシカル・リアリズム=国家にパワーを求めさせるのは、国家に内在する諸要因である。国家は覇権達成のために、相対的なパワーを最大化する。
◆【リベラリズム】リアリズムは、軍事や安全保障問題を高次元の政治問題、経済や環境問題などを低次元の政治問題としているが、リベラリズムは様々な個別の争点領域に優先順位をつけない。また、国家を単一なアクターと見るリアリズムに対し、リベラリズムは国際機関や多国籍企業、NGOなど非国家主体の役割も重視している。
①相互依存論=貿易や投資などの経済交流が盛んになれば、国家間の平和が促進される。
②国際レジーム論=国際レジーム(条約のような行動規則や準則、慣行、行動規範など)が自律的な機能を有し、国家間の協力関係の構築に影響を与える。
③ネオリベラル制度論=国際レジーム論の主張に、経済学における新制度論やゲーム理論の要素を取り入れ、国際制度が国際協調を生み出すメカニズムを論じる。
④デモクラティック・ピース論=国内の政治制度や規範に注目し、民主主義国家同士であれば、その制度的・規範的制約により互いに戦争をしない。
◆【国際政治経済論】国家と国際市場の関係、貿易相手国との政治的関係、国際関係が及ぼす国内市場への影響、いくつかの国家が国際市場を通して持つ政治的関係を分析する理論である。
①経済ナショナリズム=経済資源獲得競争のために国際市場に参入する国家は、利益を最大化するために、取引のルールを自国の参加者にとって有利なものに変えるとする思想。「覇権安定論(一定の条件を満たす1国の覇権が存在すれば、多くの国にとって利益となり、世界が安定する)」を生んだ。
②リベラリズム=国家が対外貿易に介入することを批判し、市場の自動調整機能に期待する思想。前述の「相互依存論」や「国際レジーム論」を生んだ。国際レジーム論は、現代においてアメリカの覇権が弱まっても、世界がそれなりに安定している理由を説明することができる。
◆【従属論】従属論はラテンアメリカから生まれた理論で、自由主義貿易体制の中で、なぜ開発途上国が先進国のように経済発展の道を歩めないのか、なぜ開発途上国は対外貿易が増えるにしたがって貿易赤字と対外債務が増えるのかという疑問に答えようとした。
開発途上国が一次産品の輸出に依存していると、長期的には先進国との交易条件が悪化し、貿易赤字と対外債務が増加するとする立場からは、政府主導による輸入代替工業化の重要性が説かれた。さらに、開発途上国が先進国に対して従属せざるを得ないのは資本主義システムの必然であるとする立場からは、開発途上国が自給自足化するか、社会主義革命を起こすしかないとされた。
◆【世界システム論】新従属論から生まれた世界システム論は、主権国家中心ではなく、世界を「中核―半周辺―周辺」の3層構造からなる1つのシステムととらえ、どの国の経済もいずれかに属してシステムの一部として機能していると説く。
従属論は「貧しきものはますます貧しき」のパターンの理論的裏づけを行っただけだが、世界システム論は搾取のパターンから脱却し、自律的に発展し、中核近くまで変動可能な序列階層的な3層構造を提示した。それによって、1970年代以降の世界不況下でアジア諸国が経済発展した現象を解き明かすことができた。
◆【コンストラクティビズム(構成主義)】ネオリアリズムやネオリベラリズムの土台である合理主義と、ポストモダニズムなどに代表される省察主義の中間に位置する理論である。冷戦がなぜ突然終結したのかを説明することが可能である。
コンストラクティビズムにおいては、国家の理念(アクターがどのように物事を理解しているか)が出発点となる。理念は単独で成立するのではなく、国家同士の相互依存の中で生じる間主観性を持っている。その理念が構造を形作り、構造が国家のアイデンティティと利益に影響を及ぼし、国家の政策決定や国際行動を決定する。構造、アイデンティティ、利益もまた、間主観的なものである。
◆【規範理論】リベラリズムの規範理論は、いかなる武力行使が正当化されるか?人権について何をなし得るか?富の配分や環境に関する我々の責務は何か?などを問うものである。
①国家中心的道義主義=最も重要なのは国家主権であり、侵略行為は許されないと考えた上で、武力行使が正当化される基準を提示した。国家がその基盤である民族自決権や人権を著しく侵害して国民との適合性を失っている国家の主権は弱められなければならない。
②世界市民主義=国境に大きな道義的意義を認めず、それをできるだけ取り払って世界正義を考えようとする。諸国家ではなく人間たちが権利の受益者であり、義務の担い手と見なす。政治指導者が目指すべきは、自国民の利益のみならず、全世界の人々の福祉である。
◆【批判的国際理論】批判的社会理論を構築したフランクフルト派の影響を受け、国際関係理論の伝統的理論(とりわけネオリアリズム)を以下の4点で批判する。第1に実証主義に対する批判、第2に既存の国際関係における不変性への批判、第3に構造主義批判と歴史の必要性、第4に国際政治における国家中心主義に対する批判と、基本ユニットとしての国家を前提とすることの見直し、である。
①ボトムアップからの国際政治経済=マルクス主義の影響を受けており、生産(生産関係)、国家の形態、世界秩序からなる社会関係を想定し、生産過程の変化によって生じた社会勢力が、現存の世界秩序を変容させるかもしれない新しい世界秩序形成の出発点であると考える。
②コスモポリタン的ガバナンス=市民権は国民国家の中のみに限定されるべきではないとする。普遍的な経済的政治的営みのシステムの構成を究極目的として、より人間中心の国際関係論の視座を提示する。全ての組織的な疎外の形態から脱することの必要性、人類の全てのメンバーの合意を確保できるグローバルな取り決めを発展させる責務が、人間中心の国際政治における普遍主義である。
《感想》
本書は、国際関係理論の主要な理論をまとめたものです。主に国際関係理論を学ぶ学生や研究者向けに書かれた本であるため、門外漢の僕にとっては難しい部分も多々あったのですが、それぞれの理論を比較しながら概観するにはちょうどよい1冊でした。
僕が国際関係理論に興味を持ったのは、中国が台頭し米中対立が激化する中、日米同盟でアメリカとつながり、同時に歴史的・文化的・経済的に中国とつながっている日本がどのようなポジションを取ればよいのか考えてみたいからです。
中国は建国100周年にあたる2049年までに世界の覇権を握ろうとしています。その時代を僕は生きる可能性が高いわけで(2049年で僕は68歳になる)、地政学的にも米中両国に挟まれた日本がどうすれば生き残れるのか?両国の対立を日本が調停することはできるのか?その答えを自分なりに持っておきたいのです。
僕は、国際関係についていくつかの個人的な前提を立てています。
・世界は国土の広さ、軍事力、経済力、国際社会に及ぼす影響力、また地政学的観点から、大国と小国に分かれる。
・世界は大国同士が対立する2極システムとなり、お互いに覇権を目指して競争する。
・大国は自らの味方を増やすために、周辺の小国を取り込む。
・覇権争いをする大国同士は衝突リスクを抱えているが、直接戦争すると相互に甚大な被害をもたらすので、それを回避するために小国に代理戦争をさせようとする。
ここで、小国が取り得る選択肢には以下の3つがあります。
①同盟関係などを通じて、対立する大国のうち一方の全面的な庇護下に入る。
②双方の大国から距離を取り、独立独歩の道を歩む。
③双方の大国に対して八方美人的な外交を展開し、戦略的曖昧さを発揮する。
①は小国同士の戦争リスクが高まり、小国が破滅する危険性を帯びています。②はグローバル化が進み、国家間の相互依存性が高まった現代では現実的ではありません。すると、実は③が小国にとって最も有効なのではないか?というのが僕の仮説です。これを説明する国際関係理論は一体何なのだろうかと、本書を読みながら色々考えさせられました。
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