ポピュリズムとは何か(ブログ用)

《要点》

◆ポピュリズムには、①固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴える政治スタイルであるとする定義と、②「人民」=「下」の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動だとする2つの定義がある。本書では後者を採用する。

各国のポピュリズム政党が標的とするのは代表制民主主義であり、代表者=政治エリートが市民の要求を無視し、自己利益の追求に専念していると批判する。ポピュリズムは、市民の要求を実現する回路を真剣に求めているという点で、ラディカル・デモクラシー(近年の「新しい社会運動」や多文化主義、参加民主主義、討議デモクラシー論など)と共通する。

ポピュリズムが政治現象として本格的に歴史の中に姿を現したのは19世紀末のアメリカである。1892年に創設され、二大政党の支配に挑んだ人民党は、別名ポピュリスト党と言われ、ポピュリズムの語源となっている。

その後、20世紀半ばになると、ラテンアメリカをポピュリズムが席巻するようになった。ラテンアメリカでは、植民地時代から続くエリート支配が、農産物や鉱産品の貿易と外国資本を利用した公共インフラの経営を独占していた。しかし、1930年代の大恐慌により一次産品の自由貿易が困難になると、経済が構造的な改革を迫られた。ラテンアメリカのポピュリズムの代表としては、アルゼンチンで労働者を支持基盤としたフアン・ペロンを挙げることができる。


◆ヨーロッパでは、①EUの進展や冷戦の終結などに伴い、左右政党の政策的距離が縮まったこと、②それぞれの政党の支持基盤であった組織が弱体化したこと、③グローバル化によって「近代化の敗者」が生まれたことから、既存政党に自らの利害・関心が反映されていないと感じる人が増え、ポピュリズムが広がった。ヨーロッパの極右的なポピュリズム政党には、フランスの国民戦線(FN)、オーストリアの自由党、ベルギーのVBなどがある。

ベルギーのVBは、極右のイメージを払拭しながら反移民政策を掲げることで勢力を伸ばした。オランダ語圏のフランデレン(フランダース)に基盤を置くVBは、地域の劇場(公的資金で運営されており、社会の利害を広く代表すべきと考えられている)がフランス語の優位に屈し、無意味な「文化的多様性」を受け入れていることをも批判した。

◆環境・福祉の先進国と見られているデンマークやオランダにもポピュリズム政党は存在する。デンマークの国民党やオランダの自由党がそれである。これらは極右とは明らかに距離を取り、デモクラシー的諸価値を前提として成立した政党である。近代西洋のリベラルな価値を重視し、政教分離や男女平等を訴えるとともに、返す刀で近代的価値を受け入れない移民やイスラム教徒への批判を展開している(啓蒙主義的排外主義)。

オランダ自由党は、党設立から現在に至るまで、正式な党員がヘールト・ウィルデルス1人のみという「1人政党」である。インターネットを使えば市民と直接コミュニケーションが取れるので、党員や党支部といった中間的な存在は不要というのがその理由である。政党助成を受けられないというデメリットはあるが、党員を抱えない分だけ身軽な党運営が可能となる。

◆スイスは、19世紀半ばから後半にかけて国民投票の制度が導入された、純粋な民主主義の理想国だと考えられている。だが実際には、国民投票によって政府の重要法案が否決されるケースが増えたため政府は野党や一定の組織力を持つ民間団体をあらかじめ取り込むという「協調民主主義」が採用されてきた。しかし、これがかえって国民にとっては選択肢の減少を意味し、政治エリートによる権力の独占だと映り、ポピュリズムの台頭を許した。

スイス国民党は、AUNS(スイスの独立と中立のための運動)という民間団体(EUはじめ国連、NATO、IMFなど、ありとあらゆる国際組織に加盟することに反対している)を原動力とし、ミナレット建設禁止や反移民案などを国民投票によって可決させている。

◆イギリスでは、保守党や労働党がいずれも高学歴の中間層を明確にターゲットに置き、議員や党活動家も中間層の出身者が占めるようになった。その結果、「置き去りにされた人々」である伝統的な労働者層では、既成政党に対する不満が鬱積していく。彼らの支持を取り込むことでイギリス独立党は躍進した。

2016年に行われたEU離脱の是非を問う国民投票は、当時の保守党政権が仕掛けたものであったが、独立党の積極的なキャンペーンの結果、EU離脱派が勝利を収め、世界に衝撃を与えた。国際的な問題に関心もない低学歴で中高年の後ろ向きな人々が、排外的な感情に駆られ、ヨーロッパを目指す将来ある若者にくびきを負わせたとして、国内に深刻な分裂をもたらした。

新党が勝ち抜くことが難しい小選挙区制はポピュリズム政党に不利に働くが、比例代表制ではポピュリズム政党も議席を獲得することが可能である。比例代表制が採用されている2014年欧州議会選挙では、フランスの国民戦線、イギリスの独立党が議席を獲得し、ヨーロッパの小国のみならず大国においても、ポピュリズム政党に活路が開かれた。今や、反民主主義的で右派的な政党の活動に法的な制約があるドイツでも、AfD(ドイツのための選択)が存在感を増している。

ラテンアメリカのポピュリズムは、植民地時代から続く特権層の支配に切り込み、社会経済の改革を通じて再配分を実現しようとする「解放型」である。これに対してヨーロッパのポピュリズムは、福祉国家による再配分によって便益を得ている者、すなわち生活保護受給者、公務員、移民・難民などを特権層と見なし、彼らが支配する文化への抵抗を見せる「抑圧型」である。

ポピュリズムには、既存政党の改革や社会の再活性化を促したというプラスの側面があることも否定できない。ポピュリズムは「ディナーパーティーに現れた泥酔客」である。現代デモクラシーは、この泥酔客と真摯に向き合わなければならない。

《感想》
著者はラテンアメリカとヨーロッパのポピュリズムを区別しますが、①既存の特権層によって利益を損なわれている人々を「自由」にすることを目指し、②社会に連帯を呼びかけて「平等」を実現する、という点では共通しているように感じます。ポピュリズムは反理性の運動ではなく、むしろ啓蒙主義の嫡子と言えそうです。

この点で、僕はポピュリズムとイノベーションに共通項を見出します。イノベーションも、既存の多様な製品・サービスをもってしても十分にそのニーズを満たせない人々に対し、技術革新によって新しい日常を生きる自由を与え、その利益を広く平等に社会全体に行き渡らせる行為であるからです

ただし、厳密に言えば、現在のポピュリズムは特権層からの解放(「○○からの自由」)を志向する否定的・破壊的な運動にとどまっており、積極的に実現したい新しいビジョンや価値(「○○への自由」)を創造する視点が希薄であるという課題を抱えています。ポピュリズムがこの課題を解消すれば、いよいよ政治的イノベーションになるでしょう。

とはいえ、ポピュリズムもイノベーションも1つの逆説を抱えています。ポピュリズムは社会の価値観を新しく統一し、イノベーションは消費者の生活様式を新しく統一しようとしますが、仮にそれに本当に成功すると全体主義となり、やがては自らの破滅を招いてしまうという逆説です。そのため、ポピュリズムもイノベーションも、既存の政治権力や企業などを完全に駆逐することはしません。

本書では様々なポピュリズム政党が取り上げられていますが、どれ1つとして既存政党を消滅に追いやったものはありません。イノベーションに関しても、例えばインターネット通販によって、対面販売型のビジネスが完全に消えたわけではありません。

それゆえに、社会に深刻な対立と分断を生むことが宿命づけられています。既存政党とポピュリズム政党はどちらがより望ましいのか?イノベーションは既存企業の製品・サービスよりも本当に利便性が優れているのか?社会全体での論争が不可避となります。

二者択一的な議論を和らげるには、一種の「調停者」を設けることが有効です。我々は、既存政党とポピュリズム政党の間を取り持つ新たな存在を必要としています。ただし、それがどのような組織形態や仕組みを持つのかはまだ解りません。我々は、伝統的企業とイノベーションの間を取り持つ新たな存在も必要としています。それを僕は、以前からしばしば口にしている「新しい日本的経営」に期待しています。とはいえ、これもまた、その中身がまだ煮詰まっているわけではありません。

調停には2つの方法があります。1つは対立する双方の「ハイブリッド型」を採用することです。AIは現在のイノベーションの代表例ですが、最新のAIを活用したバーチャルな営業と、従来型の対面営業を上手く組み合わせる新たな営業スタイルを確立することはその1つと言えるでしょう。

しかしながら、二項対立が相互に完全に排他的である場合は、ハイブリッド型が難しくなります。例えば、先日改正民法によって導入が決定された「共同親権」に関しては、「導入するか?」、「導入しないか?」という2つの選択肢をバランスさせることはできません。そこで、発想の転換を図る「弁証法型」に挑戦しなければなりません。

そもそも、子どもの利益を社会全体で保護するにはどうすればよいのか?親の利益を保護するにはどうすればよいのか?子どもの利益と親の利益はどちらが優先するのか?困難な関係にある両親の問題について社会がどう取り組めばよいのか?などといった視点から、調停者が共同親権というあり方以外の選択肢を模索することも大切ではないかと考えます。

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