
本書は、先日紹介した太田裕朗、山本哲也(2022)『イノベーションの不確定性原理』(幻冬舎)の著者が執筆の際に大いに参考にしたであろう1冊です。「世界は『自由』と『失敗』で進化する」というサブタイトルがその内容を端的に表しています。
「イノベーションを生み出す秘伝のソースのおもな材料は『自由』だ。交換し、実験し、想像し、投資し、失敗する自由であり、統治者や聖職者や泥棒による奪取と制約からの自由であり、消費者の立場からすると、自分が好きなイノベーションに報い、そうでないものを拒む自由だ」(p414)
本書の著者であるマット・リドレーは、イノベーションに関する従来の考え方をことごとく否定しています。
①【従来の考え方】イノベーションとは突然飛躍する瞬間である。
⇔【著者の主張】イノベーションは緩やかな連続プロセスである。例えば、コンピュータの物語は幾通りにも語ることができる。ジャカード織機から始めたり、真空管から始めたり、理論から始めたり、実践から始めたり、といった具合に。これらの要素が関連し合って、徐々に進行するものである。
②【従来の考え方】イノベーションは1人の、あるいは少数の天才によってもたらされる。
⇔【著者の主張】イノベーションは大勢の協力と共有によってもたらされる。1人が技術的な突破口を開き、別の人がその製造方法を考え出し、3人目が普及するくらい安くする方法を練り上げる。全員がイノベーションプロセスの一部であり、そしてこの点が重要なのだが、イノベーション全体を達成する方法は誰も知らない。
③【従来の考え方】イノベーションは事前に計画される。
⇔【著者の主張】イノベーションにはセレンディピティ(思いもよらない偶然がもたらす幸運)が大きな役割を果たす。デュポンがテフロンを発明したのも、ケブラーを開発したのも、全くの偶然である。YahooやGoogleの創立者は検索エンジンを求めて起業したわけではない。Instagramの創立者はゲームアプリを、Xの創立者は人々がポッドキャストを見つける方法を考案しようとしていた。
④【従来の考え方】イノベーションには科学(体系的な知)が先行する。
⇔【著者の主張】科学がイノベーションの後からついてくるケースも同じぐらい頻繁に見られる。蒸気機関が熱力学の理解につながったのであって、その逆ではない。動力飛行はあらゆる航空力学に先行していた。動植物の育種は遺伝学に先行していた。ハト好きがダーウィンの自然淘汰に対する理解の基礎を築いた。
⑤【従来の考え方】使命感を持った国家が研究開発を支援することでイノベーションは促進される。
⇔【著者の主張】そのような証拠はない(著者はマリアナ・マッツカートの『企業家としての国家』を批判する)。19世紀、イギリスをはじめヨーロッパ諸国が鉄道、鉄鋼、電気、織物その他多くのテクノロジーを開発した時、政府は遅ればせながら規制や標準を作ったり、自ら顧客となったりする以外にほとんど貢献しなかった。政府が資金提供したイノベーションのほとんどは、政府が指導的な役割を果たした事例ではなく、スピルオーバー効果の事例である。
余談ですが、『イノベーションの不確定性原理』では、イギリスの特許制度がイノベーターを動機づけ、イノベーションを下支えしたとありました。一方、マット・リドレーは、イノベーションにはアイデアの共有が不可欠であるとする立場から、それを阻害する特許制度には非常に消極的です。
話を元に戻すと、技術や製品・サービスは常に漸進的な改善・変化を重ねており、それがたまたまその時の社会環境や顧客の情勢にフィットした時、イノベーションが成立すると著者は言いたいようです。つまり、イノベーションとは「進化論」に基づくのであって、意図的に新しい世界を作り上げるものであるとする「創造論」を否定しようとしています。
「これ(※「偉人説」)は歴史一般にほとんど当てはまらないが、とくにイノベーションの歴史には当てはまらない。ほとんどの人は自分の人生を客観的事実よりコントロールしていると考えたがる。断固たる独立した人間の行為主体性という考えは、気分がいいし慰めにもなる」(p285)
ただ、イノベーションが進化論に従うのだとすれば、イノベーションは全て偶然の産物ということになってしまいます。すると、イノベーションに関わる人たちは何を動機としてイノベーションに取り組むのか?さらに、そもそもイノベーションは何のために必要なのか?という点が曖昧になってしまうと感じます。
社会全体で見た場合は、もちろん最適なイノベーションが最後は生き残るのですが、イノベーションに携わる個々のプレイヤーは創造論に従って動いているのではないか?というのが僕の考えです。アメリカでは創造論と進化論を調和させる動きがあるようです。イノベーションに関しても同じことが必要ではないでしょうか?
#本の紹介
#ビジネス書
#読書
#読書記録
#本が好き
#本好きな人と繋がりたい
#読書倶楽部
#本スタグラム
#読書男子
#本のある生活
#おすすめ本
#やとろじー
#経営
#ビジネス
#経営コンサルタント
#経営コンサルティング
#コンサルタント
#コンサルティング
#中小企業診断士
#診断士
コメント