
《要点》
◆組織のトップになった「超人」が「営業なんて簡単だ」、「営業は当たり前のことを当たり前にやればよい」などと言い始めると、「ガンバリズムの罠」にはまりやすくなり、指導方法が解らないマネジャーは「目標達成プレッシャー」、「大量行動」、「関係構築」に頼って抽象的なアドバイスをするようになる。
◆お客様から出てくる「表面的なセリフ」と「裏側にある本音」のギャップを理解しないと、営業の成果は出ない。お客様は、とっさの防御反応で様々なセリフを口にする。お客様は「購買者の仮面」をかぶっている。購買者の仮面には、①はぐらかしの仮面、②忙しさの仮面、③いきなりの仮面、④とにかく安くの仮面、⑤検討しますの仮面がある。営業がまずやるべきなのは、「購買者の仮面を外してもらうこと」である。
◆「①はぐらかしの仮面」をつけたお客様は、いわゆるBANTCHといった意思決定にかかわる大事な情報を質問しても、のらりくらりとかわしてくる。「教えたくないから秘密にしよう」と思っているのではなく、「教えることの不利益を心配している」のである。
はぐらかしの仮面を外すには、枕詞をつけた質問、お客様の発言を深掘りする質問、具体的な情報を聞き出す特定質問、「むしろ困っていないのでは?」から真の課題を聞き出す核心質問、売り込みの匂いを消して提案につなげる課題解決質問、5W2Hの観点からお客様を深く理解する質問といった武器を駆使する。
◆「②忙しさの仮面」の裏にある本音は、「レベルの低い営業に時間を使いたくない」というものである。その仮面を外すカギは、「価値の根拠を示す」ことにある。課題解決や費用対効果の点でお役に立てることを、早いレスポンスとともに伝えていく。こまめな連絡をすることは大切だが、雑談を交えつつお客様の話を傾聴し、足しげく通うだけでは、お客様の検討状況は進まない。
◆「③いきなりの仮面」をつけたお客様は、突然「今週中にも見積をください」のようにリクエストしてくる。その裏にある本音は、「話が早くて頼りになる営業にお願いしたい」というものである。
いきなりの仮面を外すカギは「高速ラリー」である。「返信1日、解決2日」のレスポンスを心がける、最低週に1回以上のコンタクトを取る、初回訪問から5日以内に仮提案を出す、10分電話商談を活用する、状況に合わせて多様なチャネルを使い分けるなどを通じてラリーを繰り返し、お客様の期待と営業の提案を擦り合わせていく。
◆「④とにかく安くの仮面」をつけたお客様は、判断基準がよく解っていないために「もっと安くなりませんか?」と言ってくる。その仮面を外すカギは、「価格以外の判断基準」を明示することである。網羅感、具体化、優先順位という3つの観点で要件を整理し、財務インパクト、成長イメージ、理念の実現、負担の軽減という4種類の費用対効果を示すとよい。
お客様の判断基準をあぶり出すには、「いつ発注が決まっていたのですか?」と、接戦の決定場面を問う質問が有効である。
◆クロージングの際に「⑤検討します」の仮面をつけるお客様は、「一時しのぎの現実逃避をしたい」という心理を抱いている。その仮面を外すカギは、「前進のための助け舟を出す」ことにある。
お客様内部の関係者の全体像を特定し、お客様の特性を論理・感情・政治の3タイプに分けて理解した上で必要なアクションを講じる。なぜこの金額なのか、価格の妥当性を説明しながら、4階層コミュニケーションを通じて、お客様内部での予算化の道筋をつける。
《感想》
営業1万人+お客様1万人=合計2万人に対する調査をベースに、成果を出す営業のメカニズムをデータとロジックで裏づけ、「誰もが使える武器」として体系化した1冊です。
営業と対峙するお客様は様々な「仮面」をつけています。よって、お客様が発する言葉を字義通り受け取って対応してはいけないことが多々あります。
例えば、アポ取りの際に「今は忙しいです」と言うお客様に対して、「いつならお時間が空きますか?」と聞いてはいけませんし、クロージング後に「社内で検討しますから少々お待ちください」というお客様を信じて、お客様からの返事をただ待っているだけではダメだということです。
営業は、お客様の仮面を外す「武器」を駆使する必要があり、本書では実に多彩な武器が解説されています。率直に言って、本書の体系化の緻密さには頭が下がる思いです。
営業の歴史をざっくり紐解くと、昭和と平成では求められる営業スタイルががらりと変わっています。昭和の時代には、お客様が自らの目指すべき方向性を理解しており、かつその方向性を実現する手段も理解していて、その手段を外部から調達する場合がほとんどでした。よって、営業に求められたのは、徹底した御用聞きによってニーズの出現を迅速に把握し、低価格で製品・サービスを納品することでした。
平成の時代に入ると、お客様は自らの目指すべき方向性をある程度理解していましたが、その実現手段が解らなくなりました。営業には、お客様が目指す方向性を固め、その実現のために自社製品・サービスが価値貢献できるというストーリーを示すことが求められるようになりました。いわゆるコンサルティング営業です。
本書は、コンサルティング営業を体系化したものだと思います。しかも、単にお客様の課題をロジカルに整理するだけでなく、お客様内部の社内政治を理解した上で、課題解決の組織的な道筋をつける方法にまで触れた1冊です。
コンサルティング営業そのものは以前から存在していましたが、成功するコンサルティング営業の内実がここまで丸裸にされてしまった以上、今後世の中の営業スタイルはいよいよ本書が説くものに収斂していくでしょう。となると、差別化のためには「次の営業スタイル」を考案しなければならない気がします。令和の時代にはどんな営業スタイルが求められるでしょうか?
いわゆるVUCAの時代にあって、お客様はもはや自らが目指す方向性すら解らなくなっています。表面的にはビジョン経営、ミッション経営、あるいはパーパス経営を掲げ、自らの方向性を示しているようでも、本当のところ自社がどこに向かっているのか、困惑・混乱しているお客様は少なくないと考えます。
お客様はダイバーシティ・マネジメントによって、多様性の中から新しいものを生み出そうとしています。ところが、ビジョン経営、ミッション経営、あるいはパーパス経営によって、お客様の内部は意外と同質化しているものです。そこに揺らぎを与えることができるのは、営業という外部からの異分子です。営業は、お客様が同質化によって壊死するのを防ぐ救世主にならなければなりません。
営業には自社の製品・サービスという道具があります。お客様がその道具を手にした時、お客様はどう生まれ変わることができるのか?どう自らを再定義することができるのか?それによって、お客様はどんな新しい未来を創造できるようになるのか?そのイメージをお客様と共創することが、令和の営業に求められることではないかと考えます(そのような営業を具体的にどう進めればよいのか、僕にはまだ見えていませんが…)。
こうした営業スタイルの転換は、既存のマーケティングの方法論にも変革を迫ります。既存のマーケティングでは、まず収益が上がりそうなターゲットセグメントを定め、ターゲット顧客のニーズを分析して、そのニーズを充足する製品・サービスを開発してきました。
しかし、あるセグメントから収益が上がるかどうかを判断できるのは、お客様のニーズがある程度明確で、それに対してどの程度お客様が対価を払ってもよいか見通しが立つことが前提です。今や、その前提が崩れているのです。
そのような状況の中でも、お客様にアプローチするためのトリガーとして、自社製品・サービスは持っていなければなりません(裸一貫でお客様にアプローチできるスーパー営業はごく一握りしか存在しません)。ニーズが不明な中で、企業は何を手がかりに自社製品・サービスを開発すればよいのでしょうか?投資に対する回収のシナリオをどのように描けばよいのでしょうか?営業スタイルの変革とともに、マーケティングの変革についても考える必要がありそうです。
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