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繰り返しになりますが、僕は経営を「伝統的経営」、「アメリカ型イノベーション」、「新しい日本的経営」という3つのタイプに分けてとらえています。

「伝統的経営」とは、創業者や経営陣の個人的な原体験を源泉とする経営理念を出発点とした上で、経営理念を実現するための戦略(どのマーケットを攻めるか?競合他社とどのように差別化するか?など)を合理的に導き出し、戦略実行に必要な組織能力や人材の能力を計画的に開発して、戦略を実行に移す経営のことです。

「アメリカ型イノベーション」とは、世界中の人々の従来の消費習慣を否定し、技術の力を借りて新しい行動変容をもたらすのだという強い野心を持ったイノベーターが、世界中から膨大な資金と優秀な人材をかき集め、強みを徹底的に磨き上げて野心を実現させる経営のことです。

両者に共通するのは、①目的志向であること(最初に組織として叶えたい目的を設定する)、②論理重視であること(目的を達成するための手段をバックキャスティングで論理的に追求する)、③強みの活用、または新たな強みの獲得に重きを置いていること、という3点です。

しかし、最初に明確な目的を設定することができず、論理的に物事を考えるのが不得意な場合、あるいは組織や人材にこれといった強みがない場合(強みとは、ドラッカー風に言えば競争者に対する卓越性のことであり、相当高度なレベルが求められます)、もはや経営は不可能なのか?という問題意識が僕の中にありました。

そこで、僕が第三の道として提示したいのが「新しい日本的経営」です。「新しい日本的経営」とは、経営者に原体験や強い野心がなくとも、ありものの手段を組み合わせながら積み上げ式で未来を創造する経営です(この点で、「エフェクチュエーション」の影響を受けています)。そして、人との縁や偶然の出来事をレバレッジさせるという、合理性・論理性重視とは異なるアプローチをとる経営のことです(これは、僕が大好きな「水曜どうでしょう」からヒントをもらいました)。

今年、その「新しい日本的経営」について比較的よく書けたと思う2本の記事があるのですが、書いた後に考え直したところがあり、2点ほど修正を加えたいと思います。

《2本の記事》

《①Willから出発するか、Canから出発するか?》
【記事A】では、「伝統的経営」は経営理念(Must)から、「アメリカ型イノベーション」は野心(Can)から、「新しい日本的経営」は関心(Will)から出発すると書きました。「新しい日本的経営」では、経営者の「これをやってみたい」、「これが面白そうだ」というちょっとした関心からスタートすることを想定していました

しかし、関心から始めると、その関心事を実現する「ために」どうすればよいか?という「目的―手段思考」に頼らざるを得ず、「伝統的経営」や「アメリカ型イノベーション」との違いがなくなってしまいます(また、「アメリカ型イノベーション」の野心にCanを対応させているのにも、不自然さを感じるようになりました)。

そこで、「伝統的経営」の出発点はCanであると修正したいと思います。ここで言うCanとは、強みといった大げさなものではなく、「ちょっとした得意」のことです。「他者/他社と比べて圧倒的にこれに長けている」とまで言えなくても大丈夫です。原体験や野心は必ずしも多くの人にあるわけではありませんが、ちょっとした得意なら多くの人が何かしら持っていると考えます(同時に、「アメリカ型イノベーション」の出発点をWillに変更します。Will=「~したい」の方が、野心という日本語によく対応しています)。

20241020_新しい日本的経営(修正)①
20241020_新しい日本的経営(修正)②

連続して起業を行う熟達した起業家に共通している思考・行動様式をまとめたエフェクチュエーションで出発点になっているのは「自己理解」です。すなわち、①私は何者か?②私は何を知っているか?③私は誰を知っているか?という3つの問いに答えることです。要するに、「自分+自分の人脈」を手段として何ができるか?(=Can)がスタートになっていると言えます。


エフェクチュエーションと言えば必ず出てくるのが上図です。しかし、個人的にこの図はシンプルなように見えて、実は非常に難解だと感じています。僕の妻も最近エフェクチュエーションについてのセミナーを聞いたみたいなのですが、「実際にこの図に従ってどうすれば新規事業を立ち上げられるのかが解らない」とこぼしていました。その難しさは、とりわけ起点である自己理解、Canの整理が具体的でないことに起因していると考えられます。

自分のCanをどのような切り口で棚卸しするか?自分の人脈と彼ら彼女らのCanをどのように把握するか?それらのCanを組み合わせてまず最初の一歩を踏み出す手法とは何なのか?「新しい日本的経営」の実践的アプローチを具体化する中で、僕自身がこうした問いに答えられるような方法論を準備しなければなりません。

《②直観を利用するか、直感を利用するか?》
【記事A】の中では、「アメリカ型イノベーション」では「直観」を用い、「新しい日本的経営」では「直感」を用いるという区別を行いました。一方で、【記事B】では、「新しい日本的経営」が運を引き寄せるための法則の1つとして、「直観性」という言葉を使いました。表記の揺れが生じているので、【記事A】に従って【記事B】の表現を「直感性」に改めたいと思います。

20241020_新しい日本的経営(修正)③
20241020_新しい日本的経営(修正)④

「直観」と「直感」は漢字1字だけの違いですが、その意味は大きく異なると僕は考えます。「アメリカ型イノベーション」が用いる直観とは、世界中の人々に技術を通じて行動変容をもたらすほどの大きな論理性を備えた知のことです。

田坂広志氏の著書『直観を磨く―深く考える七つの技法』(講談社、2020年)は、そうした天才的な直観について解説された1冊です。田坂氏によると、量子物理学の世界には「ゼロ・ポイント・フィールド仮説」というものがあるそうです。簡単に言えば、この宇宙に普遍的に存在する「量子真空」の中に「ゼロ・ポイント・フィールド」と呼ばれる場があり、そこにはこの宇宙の全ての出来事の情報が記録されているという仮説です。

この宇宙の出来事が全て書き込まれているのですから、直観を通じてそこにアクセスすることができれば、世界がこの先どの方向に進むのかが解り、世界中にインパクトを与えるイノベーションを引き起こすことが可能となるのでしょう。

さらに言うと、田坂氏は1人の人間がゼロ・ポイント・フィールドにアクセスする方法について論じましたが、イノベーションの本場であるアメリカでは、組織全体で直観を活用する方法についての研究が何十年も前から進んでいます。その成果の一部が、例えばピーター・センゲの「学習する組織」であり、オットー・シャーマーの「U理論」です。

ただ、僕が「新しい日本的経営」に期待する知は、こんなに大げさなものではありません。身体がとっさに反応して答えを出すような、もっと素朴な知のことです。それを僕は「直感」と呼びます。ちなみに、僕は定期的にコーチングを受けていますが、僕のコーチは「困ったら自分の身体に答えを聞いてごらん」というのが口癖です。身体知は我々の想像以上に大きな力を秘めています。その力を「新しい日本的経営」では活用したいと考えています。

イメージトレーニング指導者である西田文郎氏によれば、外界からの刺激に対してわずか0.1秒、遅くとも0.2秒以内で、感情を司る右脳が働いてイメージが湧くそうです。それに対して、「どうしよう」と考える理屈を司る左脳では、0.4秒経った後に思考が働き出します。つまり、イエスかノーかを問われたら、論理的に考える前に感情(直感)に従って判断しなさいというのが西田氏の教えです。

ソフトバンクグループの孫正義氏は、「ファーストチェス理論」を実践していると言われます。ファーストチェス理論とは、チェスの名人がチェスを行う際に「5秒で考えた打ち手」と「30分考えた打ち手」のうち、86%は同じになるという理論のことです。これも、直感のメリットを示す一例だと言えるでしょう。

では、小さい時から頭で考えるよう訓練されてきた我々が身体知を活用するには、具体的にはどうすればよいのか?また、西田氏の考えやファーストチェス理論は選択肢があらかじめ用意されている場合に機能するものですが、新しいアイデアを直感的に創出するにはどうすればよいか?こうした問いに答える方法論を用意することも僕のこれからの仕事になりそうです。

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